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ゾディアック

ゾディアック(2006 アメリカ)

「ゾディアック」公式サイトにリンク原題   ZODIAC   
監督   デヴィッド・フィンチャー   
原作   ロバート・グレイスミス   
脚色   ジェームズ・ヴァンダービルト      
撮影   ハリス・サヴィデス                  
音楽   デヴィッド・シャイア               
出演   ジェイク・ギレンホール マーク・ラファロ
      ロバート・ダウニー・Jr アンソニー・エドワーズ

マドンナの大ヒット曲「Express Yourself」や「Vogue」などのPVやナイキ、ペプシ・コーラ、ソニーなど多くのCMを手がけ、「セブン」「ファイト・クラブ」など凝りに凝った映像とクライマックスでのどんでん返し等、ケレン味がかった作風で知られるデヴィッド・フィンチャー。ハリウッドで大作映画の企画が持ち上がると、必ず監督候補として名前があがる一人です。過去の映画は、例外なく大スターを主演に迎えており、一見、商業的なイメージが強いのですが、その監督作品は驚くほど少ない。「エイリアン3」(1992)、「セブン」(1995)、「ゲーム」(1997) 「ファイト・クラブ」(1999)「パニック・ルーム」(2002)...。完璧主義を貫く姿勢はつとに有名です。そのフィンチャー監督の約5年ぶり!となる新作の題材はアメリカの連続殺人鬼の代名詞ともなっている『ゾディアック』。警察が公認している犯行は1968年12月から1969年10月までに3組のカップル、タクシー運転手を襲った3件。5人が死亡。2人が命をとりとめている。現在も事件は解決されていない。犯人はゾディアックと名乗り、サンフランシスコ・クロニクルなどの新聞社に犯行声明を送る。劇場犯罪の走りとも言われています。1万ページにも及ぶ証拠や書類を調べなおし生き残った犠牲者、生存するすべての関係者へのインタビューを試みました。新たに学者を雇い、ゾディアックの手紙の再検証を行う...。まさに映画制作という大義名分のもとゾディアック事件の捜査をやり直すかのごとく完璧主義の姿勢はそのままに、今までのケレンミたっぷりの作風を一変し、全米を揺るがし続けた連続殺人事件の深層に迫った映画です。
 

 ゾディアック事件とは?

ゾディアックとは、欧州諸語における黄道十二宮を意味する語。黄道を中心として南北に幅それぞれ8度、すなわち総幅16度の天空の帯のこと。主な惑星および月・太陽は主としてこの帯内を運動し、その外には出ない。日本語では「獣帯」と訳されています。時計メーカーの名前としても有名で、この映画でも有力容疑者のひとりがこのzodiacの時計をしている場面が出てきますね。
映画の話題に入る前にゾディアック事件の流れを簡単にまとめています。
なお、○の中に数字が入っているものが、警察当局がゾディアックの犯罪と認めているものです。

1968年12月20日、サンフランシスコでべディ・ルー・ジェンセンデヴィット・アーサー・ファラデーの高校生カップルが銃殺される。

1969年7月4日 ゴルフ場の駐車場で人妻ダーリーン・フェリーンと警官マイク・マジョーが襲われ人妻が死亡。ヴァレーホ警察に犯人と名乗る男から通報が入る。

1969年8月7日 ヴァレーホ・タイムス・ヘラルドに当てた手紙ではじめて犯人は自分を「ゾディアック」と名乗る。使用弾の種類、銃撃の回数、殺害現場での死体の位置など警察でしか知りえない情報が記載されていた。ギリシャ文字、モールス信号、天気記号、アルファベット文字、海軍主旗信号、星占い記号などがコード化された暗号はCIA、FBI,国家安全保障局、海軍諜報機関の暗号解読者もお手上げであったが、高校教師ドナルド・シーン・ハーデンとその妻により解読される。

1969年9月27日 ベリエッサ湖でセシリア・シェパードブライアン・ハートネルが黒い頭巾を被った男に襲われ、セシリアが死亡。

1969年10月11日 プレシディオ・ハイツ居住区
タクシー運転手ポール・スタインが殺害される。容疑者を黒人であると間違えて伝えられたことが災いし、警官2人が犯人に遭遇しておりながら、取り逃がすという失態を犯す。

・1969年10月13日 サンフランシスコ・クロニクル紙に新たな声明文が届く。ポール・スタインの血痕が付着したシャツの切れ端が添えられていた

・1970年3月22日 車を運転中のキャサリン・ジョーンズが襲われ、犯人をゾディアックだと証言。その後大量殺人の予告文が何通か送られてくる

・1974年1月30日 サンフランシスコ警察へすでに37人を殺害したこと、新聞でもっと大きく取り扱わないと「何かすさまじいこと」をやるとあった内容の手紙が届く。

・1978年4月24日 デイブ・トースキー刑事が「ゾディアックはまだ絶対に生きている」と語った新聞記事に応えるかのように、クロニクル紙に最後の手紙が届く。
(この手紙はトースキーが偽造したという疑惑がもたれ、トースキーは殺人課から盗品特別捜査課へ異動させられたが、現在ではその汚名は晴らされている)



 ゾディアック事件はなぜ迷宮入りしたのか?

目撃者もいるし、指紋や手紙の筆跡など遺留品も多く残されている。
日本人から見ると迷宮入りするタイプの事件ではないようにも思えます。
それでも、このゾディアック事件が未だに解決できないのは、アメリカと日本との捜査状況を取り巻く実情の違いによるところが大きいようです。(文庫『ゾディアック』平岡夢明氏解説を参照)

・アメリカは人種のるつぼであり、正式登録されている人口だけでも3億人。戸籍はおろか車両登録制度すらない。よって犯行現場での指紋や目撃情報による人相だけでは犯罪記録にでも残っていない限り、個人の特定は極めて困難である。

・ゾディアック事件は犯行範囲が広く、いくつもの所轄地域をまたがっていた。それにもかかわらず合同本部はもうけられていない。州をまたげばFBIのお出ましとなるのだが、あくまでも州内の所轄を行き来する程度に留まっていた。何とか他の所轄より先にこの事件の犯人をあげるため、管轄をまたがった警察署どうしが、事件に対する重要な情報を交換し合っていなかった。― このことは警察署どうしの、かみ合わない電話のやりとりという形で映画『ゾディアック』の中でもさりげなく指摘されてましたね。

・ゾディアックが送付した暗号文はCIAの暗号スペシャリストですら解けなかったほど難解なものであったが、それを一般の高校教師夫婦があっさり解いてしまった。一般参加が可能となったことが、国民の"ゾディアック劇場"への興味をヒートアップさせ、それに呼応するかのようにゾディアックは殺人を繰り返し、電話や手紙で詳細を知らせてきた。根拠のない目撃情報や無責任なタレコミ、"自称ゾディアック”などの存在に各警察署はふりまわされることになります。刑事たちは、近隣の人々、仕事場の同僚、別れた亭主にいたるまでゾディアックの可能性があると訴える手紙を分類する羽目になったそうです。一種の魔女狩り状態とも言えるでしょう。映画の中でも、次々と無責任な証言をする人たちの場面が出てきてましたね。この映画唯一の笑える箇所でした。

 目撃者たち

ゾディアックの第2の殺人とみなされている人妻ダーリーン・フェリーンと警官マイク・マジョーが襲われる場面からこの映画はスタートします。ヴァレーホ警察に犯人と名乗る男から通報が入り、メディアを巻き込んだゾディアック劇場の始まりとなるわけです。このダーリーンという女性は被害者のうち、唯一ゾディアックと面識があり、彼の正体を知っていたといわれています。映画の後半でグレイスミスがリンダという女性を問い詰めるの場面が出てきます。ダーリーンが参加しているパーティに、ゾディアックと思われる者の姿がたびたび見かけられており、犯人解明の手がかりがもっとも得やすい最重要案件だった...。だからこそ映画のファーストシーンにもってきたのでしょう。マイク・ジョーは一命をとりとめたが、しばらく音信不通になっていた。この映画でも警官の電話で彼の居場所がわからないという会話が出てきます。

この事件が迷宮入りしてしまった主な原因と考えられるものは前述のとおりですが、この映画の原作者であるロバート・グレイスミスは著書『ゾディアック』の中で自分の行く手を阻むもののひとつとして「多くの目撃者が身を隠していること」をあげています。「ある目撃者は、自分の名前を6度も変えていた。またある目撃者はゾディアックの魔手を逃れ、幾度となく名前を変え、10年間も身を隠していた」と記しています。

このマイク・ジョーが事件後25年を経て受けた再事情聴衆で、自分の見た顔がある有力調査者のそれと一致していることを伝える場面が映画のラストに登場します。犯人が生存している可能性が高い未解決事件は、報復を恐れて目撃者の口を重くし、人生をも変えてしまう。その結果、事件の手がかりはますます得にくくなり、解決への道はいっそう遠のいてしまうのです。

またベリエッサ湖での事件の生存者ブライアン・ハートネルが、TVで電話してきたゾディアックの声を鑑定する場面も映画に登場します。ベリエッサ湖での事件は、人々がこの事件を語るときに一番話題になる事件で、ベリエッサ湖はそれ以降、"ゾディアック・アイランド”というありがたくない名前で呼ばれるようになったそうです。

生存者であるマイク・ジョー、ブライアン・ハートネルの両氏はいずれもこの映画にコンサルタントとして参加しています。

また、タクシー運転手の事件ですが、実はゾディアック最大の危機場面はここだったのです。目撃者から連絡を受けたオペレーターが何を勘違いしたのか警官に容疑者は黒人だと伝えてしまいます。事件直後、無線パトロールカーの2人の警官がゾディアックと思われる人物に何か変わったことを見なかったか、とたずねています。彼らが探していたのは黒人のあやしい男にすぎなかった。彼ら2人がポール・スタイン殺害犯人と話していたことに気づいたのはこれよりずっと後。犯人は2人の警官のすぐ目の前にいたのに。もしオペレーターが黒人だと勘違いしなければ...。もし警官が男を呼び寄せきちんと事情聴衆していれば…。犯人逮捕までほんのもう少しだった。IFもしも話をしてもしょうがないのですが、警察としてみれば悔やんでも悔やみきれない1件でしょう。この2人が問い詰められる場面は映画にも登場します。2人の証言をもとに似顔絵が作成されました。

また車の中で赤ちゃんといっしょに誘拐され、ゾディアックの魔の手から逃れることができたキャサリン・ジョーンズという女性のエピソードも出てきます。彼女が拉致されたとされる日付は1970年3月22日。ゾディアックが手紙の中で彼女のことに言及したのはそれから約4ヶ月後の1970年7月24日。必ず事件直後に”連絡”してきたゾディアックがなぜ4ヶ月も後にわざわざ自分の犯行だと認めたのか?映画の中にも「彼は他人の犯罪を盗んでいる」というセリフが出てきますが、明らかに自分の犯行でないものまで自分がやったように吹聴していると看做されている事件も多数あるようです。キャサリン・ジョーンズの供述内容は2転3転しており、多くのリサーチャーは彼女が本当にゾディアックの被害者であるのか疑問を呈しています。もし彼女が本物のゾディアックから逃げたのであれば、至近距離でゾディアックの素顔をもっとも長い時間見ていた人物だということになります。

 ロバート・グレイスミスの執念

この映画の中で、警官たちが『ダーティハリー』の試写会を観る場面があります。
ゾディアック劇場花盛りの1971年に公開。犯人のスコーピオ(さそり)はマスコミを挑発するメッセージをいくつも送りつける連続殺人鬼。単なる変質者として扱われ、あっさり殺されて終わる。
ハリーに解決してもらえよ」警官たちが嘲笑する場面が出てきます。「僕が覚えている当時のことを軽く扱っている」少年時代にこの映画を見たデヴィッド・フィンチャーはそう感じたそうです。デヴィッド・フィンチャーはゾディアックの最初の殺人が行われた場所に比較的近い、カリフォルニア州サンアンセルモで少年時代を過ごしています。スクールバスの後ろをハイウェー・パトロールが護送していたのをよく覚えているといいます。「僕らはこの事件について義務がある。ゾディアックを(『ダーティ・ハリー』のように)単に出発点(モチーフ)として使いたくなかった」「人々の記憶には食い違いがあるので可能な限り警察の報告書を参考にした。ただし1点をのぞいて。できるだけ正確にグレイスミスの視点を伝えることに忠実であろうとした。グレイスミスが語ることに一字一句従いたかった。捜査報告が実証することを検証し、憶測とは距離をおきたかった」とフィンチャーは語っています。フィンチャーは脚本家らを伴ってデイブ・トースキー刑事に面会したとき、『ダーティ・ハリー』のような作り方はしないと断言。トースキーはこのとき彼らのゾディアック事件とその後の顛末に関する知識の深さに舌を巻いたといいます。



この映画ではゾディアックに翻弄され、人生までも変えられてしまう4人の男たちを中心に描いています。サンフランシスコ・クロニクル紙のスター記者ポール・エイブリー(ロバート・ダウニーJr.)、暗号に関心を寄せる風刺漫画家のロバート・グレイスミス(ジェイク・ギレンホール)、サンフランシスコ市警の刑事デイブ・トースキー(マーク・ラファロ)と、相棒のビル・アームストロング(アンソニー・エドワーズ)。
ただし、この映画は4人の男たちのドラマなどではありません。彼ら4人のバックボーンなどは一切語られない。描かれているのは、彼らがこの事件にどのような影響を受けたかのみ。あくまでゾディアック事件と「真実を知りたい」という一心のみでそれを追いかけるロバート・グレイスミスの執念に焦点を絞って描いた作品です。グレイスミスが一介の漫画家からゾディアック事件の最重要調査者になるまでの過程を描いた作品とも言えるでしょう。ただし、主役はあくまでゾディアック。この事件の全容をできるだけ正確に伝えることがこの映画の主題です。

「なぜそこまでのめりこむ?」
同僚のポール・エイブリーや妻からグレイスミスはたびたび問い詰められます。

「さまざまな感情に襲われたが、もっとも大きなものは、殺人者の冷酷さ、傲慢さ、そして狂気に対する怒りであった。時事漫画家として、私の心の中には、強い正義感と物事を変えていかなければいけないという気持ちが育っていた。また仕事上、画家兼漫画家として記号への思い入れはかなり強い。自分の職業を支える道具が、殺人鬼によって悪用され、辱められたという気持ちもあった。
“切り抜きジャック”以来、メディアに手紙を送りつけ、正体をほのめかすような手口で警察を愚弄した殺人鬼は、そのときまでいなかった。私はそのものめずらしさの虜になった。あと戻りができないほど病みつきになり、たちどころに心奪われた私は、類まれなる謎のひとつになるであろう事件を解明したいと考えるようになっていた。」とグレイスミスは著書の中で語っています。
(『ゾディアック』ロバート・グレイスミス著 ヴィレッジブックス刊 136Pより引用)

少し話はそれますが、ゾディアックが最初に送りつけた手紙の中に「人間はもっとも危険な獲物である」という表現が出てきます。これはリチャード・コネルの短編『世にも危険なゲーム』を原作とした『猟奇島』(1932)という映画の中に出てくるセリフ。それをグレイスミスが発見したことは映画でも紹介されていますね。第3の殺人現場であるベリエッサ湖で使われたナイフはこの映画『猟奇島』で主人公が狩りのために使ったナイフの精巧なコピーであると言われています。



暗号解読

ゾディアックが最初に新聞3紙に送りつけた暗号文は高校教師ドナルド・ジーン・ハーデン夫婦によって解読されます。けれどラストの「EBEORIETEMETHHPITI」の文字だけが解読されずに残っていました。映画の中で、ポール・エイブリーはそれほど気にもとめなかったにもかかわらず、グレイスミスがそれを必死で解読しようとする場面がありましたね。ベイエリアの暗号解読愛好家たちは、こぞってこの文字列を殺人鬼の本名を示していると騒ぎ立てた。失われているR,M、Pの文字を加えるとヒッピーのロバート・エメット(ROBERT EMMET THE HIPPIE)と解読できると。Who is ROBERT EMMET?(犯人が)暗号に関する特定の本を使用したのであれば、そこをたどって彼に行き着くことができるかもしれない − と考えたグレイスミスは図書館でデイヴィッド・カーンの『暗号戦争』とジョン・ラフィンの”codes and ciphers”という本を探し出し、図書館の閲覧記録を調べます。どの図書館も、その2冊の本が盗まれたか行方不明であると回答してきた...。この2冊を手にバーでポール・エイブリー相手に熱弁をふるうグレイスミス。エイブリーは「あの青い飲み物はなんだ」同じものを注文したエイブリーは小指を立てながらソレを飲みます。ひどい歓待ぶりです(笑)

 警告!
ここから先は映画の結論部分に触れております。未見の方は十分注意してください。

 最有力容疑者

ジェームズ・ヴァンダービルトの最初の脚本では結末はかなりぼかされていたといいます。
それを読んだ監督のデヴィッド・フィンチャーは「悪くはないが、この事件が現実であり真実であると感じ取れる結末がほしい。この事件はもはや伝説化してしまっている。それを解きほどくのが我々の仕事だ」として、脚本のリライトと警察報告書の追加リサーチを要請。そして、この映画では"最有力容疑者"アーサー・リー・アレンこそゾディアックであると断定してしまう、果敢極まるエンディングが採用されています。

・アーサー・リー・アレンは22口径のライフルを所有しており、「人間はもっとも危険な獲物である」とたびたび発言していた。これはゾディアックが最初に送りつけた手紙の中に含まれていた表現です。また第3の殺人が行われたベリエッサ湖での事件当日、リーの義理の姉は、彼の車のフロントシートに血まみれのナイフを見つける。「あれはニワトリの血だ。ニワトリを殺すためにあのナイフを使った」

彼の家族がリーがゾディアックではないかと疑い始めたのは1971年頃。悩みぬいたあげくデイブ・トースキー刑事に電話をかけ、恐怖を語った。その情報をもとに警察は捜査令状をとるべく準備をすすめてきた。映画を見る限り、まるで警察が左右の筆跡の違いを確認するために強引に捜査令状をとったように見えなくもないですが、実際の令状が特定しているものは「血のついたシャツの端切れ、紐、数本のペン、眼鏡、折り目の入ったズボン、紺または黒の海軍の人間が着るようなパーカー、鞘に入った短刀、そして黒の頭巾」だったそうです。リーのトレーラーハウスへの立ち入り捜査が行われたのは1971年6月4日。このトレーラーハウス捜査のあと、3年間ゾディアックからの手紙は途絶えています。リー=ゾディアック説にもっとも説得力を与えているのは、ゾディアックとリーの行動を比較した時間表(タイムライン)です。特に目を引く部分は1975年2月、リーが児童虐待の容疑で施設に入れられた後、3年間手紙は途絶えている箇所。1977年12月30日リーが施設から出るとすぐデイブ・トースキー刑事にタイプした手紙を送っているという。一体何のため?ゾディアック最有力候補の自分が出所したということをトースキーに知らせるため?1978年1月30日、トースキーはサンフランシスコ・エグザミナー紙のインタビューで「ゾディアックは絶対に生きている」と発言。それに呼応するかのように4月24日 ゾディアックから最後の手紙が届く...。

その後に展開された捜査でナバ市警の刑事たちは事件に関連していると思われる品々をアレンの自宅で発見。ハーデン夫婦が解読した暗号の綴り変えアナグラムが示唆していた"ROBERT EMMET THE HIPPIE"が誰であるかについても当初から23年後の1992年8月ついに解読されました。リーが、大学時代にヒッピーになり、後にドイツに移住した高校のクラスメートで水泳チームのライバル、ロバート・エメット・ロディファーに嫉妬していたことが判明したのです。アレンは逮捕寸前まで追い込まれていたが、同年1992年8月26日心臓発作で死亡。現在も捜査は進められており、最有力容疑者はアレンのままです。死人に鞭をうつような行為は日本人にはどうもピンとこない部分がありますが、アメリカでは謀殺殺人には時効はありません。ちなみに、アーサー・リー・アレンは指紋鑑定も筆跡鑑定もDNA鑑定においても"シロ"だと認定されています

「靴、手袋、時計、ナイフ...これだけ証拠があるじゃないか」
映画の中でグレイスミスはトースキーに訴えます。
「それはあくまで状況証拠にすぎない」
「心で答えてくれ」
「俺は警官だ」

グレイスミスはリーを約10年間つけまわしていたとか。
映画の中でのリーとグレイスミスのご対面シーンは異様な熱気が立ち込めていましたね。

未解決のまま現実に横たわり続ける殺人事件について、単なる題材として使うのではなく、事件そのものと正真正銘向かい合った映画が過去あったでしょうか?ヴァレーホ警察もこの映画に全面的に協力しているといいます。もちろんこの映画の公開が、目撃者の記憶を呼び起こすきっかけになってほしいと願ってのことです。映画全般を通して、このゾディアック事件がいかに不可解で謎にみちたものであるかがよく伝わってきます。この事件は神話でも伝説でもない、実際におこった現実の出来事であるということを観客に認識させるため、ヴィデオもフィルムも使わない最新技術を使って撮影された映像は映画で描かれている光景が目の前で実際に起こっているような錯覚を覚えるほどの臨場感をもたらしています。ゾディアックとおぼしき人物が登場するたびに奏でられるストリングスの不協和音も不気味な緊張感を促してくれます。グレイスミスは「この事件が早く解決してほしい。別に立役者が自分でなくてもかまわない。」とコメント。この不可解きわまる犯罪とグレイスミスの「真実を知りたい」という執念がぶつかりあう、N極とS極が近づいては反発しあうような独特の空気が映画全体に漂っています。映画は基本的には人間ドラマです。そのドラマ部分に主体を置かず、派手な特撮にも頼らず、事件そのものを淡々と描いただけでこれほど観客を引きつける力をもった映画を僕は他に知りません。まるでグレイスミスをこの事件にひきこんでいった引力が、この映画の映像から発せられているかのようです。

時がたてばたつほど真価が認められるタイプの作品でしょう。
でも、あえて今の段階で言いきります。
映画『ゾディアック』は10年に一本の傑作である、と。
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2007.07.07 Saturday | 14:20 | 映画 | comments(0) | trackbacks(17) |

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2019.08.18 Sunday | 14:20 | - | - | - |

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「ゾディアック」レビュー
「ゾディアック」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:マーク・ラファロ、ジェイク・ギレンホール、ロバート・ダウニーJR、他 *監督:デヴィッド・フィンチャー 感想・評価・批評 等、レビューを含む記事・ブログからのトラックバックをお待ち
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