映画のメモ帳+α

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ブリッジ

ブリッジ(2006 アメリカ)

「ブリッジ」原題   THE BRIDGE   
監督   エリック・スティール   
撮影   ピーター・マッキャンドレス                   
音楽   アレックス・ヘッフェス               
(ドキュメンタリー映画)

サンフランシスコの巨大吊り橋“ゴールデンゲート・ブリッジ"
毎年900万人の観光客が訪れるアメリカを代表する観光名所として知られる一方、世界最大の自殺の名所という別の顔を持っている。
1937年の建設以来、約2週間にひとりの割合で、1300人以上が命を落としたといわれている。
2003年10月23日付のTHE NEW YORKER誌の「JUMPERS - The fatal grandeur of the Golden Gate Bridge - 」という記事に衝撃を受けた監督のエリック・スティールは1年間に渡って橋の両岸にカメラを据えた。自殺を図る人々の姿を捉えるとともに、かつてゴールデンゲート・ブリッジで自殺した人の遺族や友人、奇跡的に命をとりとめた青年、自殺を食い止めたカメラマンへのインタビューを通して命を巡るさまざまな問題を問いかけるのが、ドキュメンタリー映画『ブリッジ』である。
   

2006年トライベッカ映画祭でプレミア上映されて以来、実際の自殺シーンを映像として映し出していることが物議を醸し、カンヌ、ベルリン、サンダンス等の映画祭は相次いで上映を拒否。
アメリカでは公開当初「なぜ自殺をとめなかったのか」「自殺をセンセーショナルに扱っている」「snuff movie(娯楽目的で、実際の殺人の様子が収められた映像作品を表す俗語。今まで都市伝説レベルではとりざたされているが表ざたになったことはない)」などと批判をあびた。その一方「美しく、心をかき乱される作品」(ロサンゼルス・タイムズ)と高い評価をも獲得。文字通り賛否両論を巻き起こしている作品である。2006年10月、全米19の劇場で公開されたものの、すぐ2〜3館規模の縮小公開を余儀なくされている。Source
確かに、心をひどく掻き乱される作品だ。66メートルの高さから実際に飛び込む映像は、一度見たら、精神的外傷(トラウマ)になりかねないほど鮮烈な印象をもたらす。

「映画の作り手である前に人間である。誰かが柵に足をかけたら、すぐに管理局と警察に連絡する」というルールを決めた上で2004年1月1日から12月31日まで毎日、「朝日が上る前から、日没の1時間後まで」撮影し続けた。橋の北側と南側、それぞれにカメラが2台ずつ設置された。橋での撮影には10人のクルーが交代で行っていた。

遺族や友人など関係者へのインタビューは120時間にも及んだが、インタビュー時、自殺の瞬間を映像におさめていることは伝えていない。しかし、最終的にはこの映画に関わった遺族たちはみなこの映画を観た。何度も繰り返し見た人もいたという。

アメリカでは現在、年間の自殺者は約3万5000人。(参考:日本では年間約3万2000人)
アメリカにおける死因の第8位を占めている。
1995年に殺人による死亡者を上回り、自殺による死者は殺人によるものより1.5倍も多いということである。キリスト教的価値観により、欧米では自殺は罪だと考える傾向が強い。その動機によっては美徳のように扱われかねない日本とは背景が異なる。



この映画に紹介されるひとりであるエリザベス"リサ"スミスさんは14歳のときに父親を亡くし、一生直らない総合失調症だと判断された。総合失調症とは「一度に22個のテレビを同時に見ているようなもの」だという。30年にわたり施設への入退院を繰り返し、一時期は回復しかけていたが40代になり病状が悪化。このゴールデン・ブリッジから投降し44年の人生の幕を閉じた。彼女の妹は「私はリサよりずっと強い人間だと思っていたけど、私にはあんな高いところから飛び降りる勇気はないわ」と語る。
また、リサさんの兄もインタビューに登場する。本人のコメントには出てこないが非常に信心深い人で、妹の自殺をどこか許していない、妹は自殺ではなく足を滑らせたと信じたがっているようである。

ブリッジから飛び降りたものの奇跡的に一命をとりとめたケヴィン・ハインズさん(25)
高校時代から躁うつ病に悩まされ、自殺願望をもっていた。
両親は息子を助けようと手を尽くすが、その思いは届かず、彼は遺書を5回書き直した後、橋にむかった。橋の上で40分泣きながら立ち尽くしたが、彼に声をかける人は誰もいなかった。

橋から飛び降りたその瞬間、彼は突然「死にたくない」と思ったという。
体勢を変え、足先から飛び込んだことで重症は負ったものの一命をとりとめた。
自殺を図ってからというもの、周りは自分を腫れ物に触るように扱うようになってしまったとケヴィンさんは嘆く。インタビューの最後で「もっと普通に扱ってほしい」と言った後、言葉に詰まり、大きなため息をつく。その後「絶対無理だけど」とつぶやく。彼は、自殺願望からは解放されたのだろうが、新たに「自殺未遂者」というレッテルを張られることになってしまった。以前とは別のかたちのトラウマに苦しみ続けることになる。一見どこにでもいるような若者だが、ふと見せるその表情には独特のかげりがある。

前述のTHE NEW YORKERの記事の中で、ある自殺サイトに記載されていた内容が紹介されている。「250フィート以上の高所から海に飛び込むのがもっとも確実な方法である」「ナイアガラの滝が新婚旅行にぴったりな場所であることと同じくらい、ゴールデンゲート・ブリッジは、自殺に最適な場所だ」
足先から飛び降りれば、助かる可能性があることはおそらくこうしたサイトによる事前の"予習"で知っていたのだろう。

日本でも1993年「完全自殺マニュアル」という本が100万部を超えるベストセラーになり、「死ぬ権利」を主張した内容は物議を醸し出した。
後に著者の鶴見済氏は「一生懸命な人生を強いられている人々から不安を少しだけ和らげる、この本はそんな存在であってほしいと思った。本当の話、読者には生きてほしいと思っていた」と語っている。参考



自殺志願者たちは、他人の声を聞く心のゆとりをもたない。
この映画『ブリッジ』の中に、ゴールデンゲート・ブリッジから飛び降り自殺した人の、遺族や友人が登場する。彼らなりに"近親者の自殺"が何を意味していたのかを時間をかけて咀嚼していったことがよくわかる。ただ、そこから浮かび上がってくるものは、本人と周囲との、あまりにも大きな心理的壁であった。

「生きていれば必ずよいことがある」
「死ぬ気になれば何でもできる」
このような励ましは多くの自殺志願者にとって気休めになるどころか、かえって当事者を追い詰めることになりかねない。特にうつ病等によって自殺願望を持つ人に対しては、励ましの言葉は禁句とされ、むしろ自殺願望を増幅させてしまうらしい。参考
個人的にも「自殺マニュアル」はつくれても「自殺予防マニュアル」をつくることは不可能だと思う。

映画『ブリッジ』は、自殺全般についての問題を取り扱っているわけではない。
あくまで「ゴールデンゲート・ブリッジで飛び降りて自殺してしまう人々」をめぐる物語である。
映画を見てもらえばわかるが、非常に人通りの多い場所である。
なぜわざわざこんな人目につきやすい場所を選ぶのか?
監督のエリック・スティールは「交通の往来が多く、それまで自殺が多発した場所を選ぶのは、止めてほしいという感情のかけらがあり、また、誰かとつながりたいというかすかな望みの現れではないでしょうか」と語っている。
映画のなかにも「誰かにとめてほしかった」というセリフが出てくる。
その"世界のどこかにいる誰か"を求めて選んだ場所が、アメリカを代表する観光地であり、全長2,790m、高さ230m、海までの距離が66mのゴールデンゲート・ブリッジなのだ。
the American Association of Suicidology(全米自殺学会)のDr. Lanny Bermanは
「Jumpersたちはまるでゴールデンゲート・ブリッジが gateway to another place(ここじゃない何処かへの入り口)であるかのような子供じみた幻想をいだいている」とのべている。

この映画の唯一の救いは若い女性の自殺を食い止めるカメラマンのエピソードである。
「カメラを見てどうもこの女性がここから飛び降りる気らしいことがわかった。その瞬間、自分は画面を見て観察する男から行動する男に変わったんだ
彼はカメラマンであるから、その後彼女が取り押さえられる場面をフィルムにおさめており、そのときの写真も映画に登場する。
「そのとき、彼女が感謝していたのか、余計なことをするなと思っていたのかは自分にはわからなかったね」写真を見ると怒っているように見えるが、本当のところはもちろん本人にしかわかりえない。

この映画の核となっているのはジーン・スプラーグという若者のエピソード。
母親ががんで亡くなってから自殺願望が強まり、何度もそれを口にして周囲を心配させていた。長髪にサングラス、全身黒づくめの服でゴールデンゲート・ブリッジをさまよう彼の姿は映画の中で何度もサブリミナルのように映し出される。ジーンが橋の上を歩いている姿を、93分間にわたって撮影し続けていたという。この映画『ブリッジ』の上映時間は93分である。
「観客に、僕らがジーンの自殺の目撃者になってしまった感覚を共有して欲しいと思った」と監督のエリック・スティールは語る。彼の姿を何度も観客の目に焼き付けたあげく映画の最後でついに飛び降り34年の生涯を閉じる。決定的瞬間を先延ばしにして見せることで、“衝撃度”を過剰に演出しているという批判を免れることは難しい。
トルーマン・カポーティの『冷血』が容疑者の死刑執行なしに成立し得なかったようにこの映画もジーンの飛び降りがなければ、作品としての形をなすのは困難だったかもしれない。
ゴールデンゲート・ブリッジの管理局は自殺者、のべ人数が850人に達したとき、このことについて報道をやめるように地方新聞に要請している。1000人に近づいたとき、地方DJがあおったりしてちょっとしたカウントダウン・フィーバーがわき起こってしまった。
管理局は1995年6月、997人目以降、人数を公表していない。
「公表しなくなったからといって人数が減ったわけではないがね」と管理局はなげく。

「なぜニューヨーカーの記事と違う描き方をしたかというと、あの記事が発表されたときには、橋の管理局はなんの反応もしなかったんだ。防止柵を作ろうとしなかっただけじゃなく、会議の議題にも上らなかったし、自殺対策についてたったひとつのメモも残されていないんだ。でもこの映画を撮影して、「橋から飛び降りようとしてる人たちの映像があります」と伝えたら、すぐに大きな反応があった。対策会議が開かれ、マスコミにも取り上げられ、犠牲者や遺族も集会を開いたんだ。少なくとも現在では、防止柵の設置について具体的に話が進んでいる。そんなことは文字で書かれているだけでは起きなかった。それこそがイメージの持っている力なんだと思う」
監督はあくまで、実際の自殺者の姿をイメージに焼け付けることによって自殺者の増加を食い止めることができると信じているようだ。

この映画に感化された観客が自殺を試みる可能性について監督は「もちろん、その可能性はリアルだ。だが、このストーリーを伝えるか、無視するか、という二者択一を迫られれば、やはり伝える方を選ぶわけで、あのままではあの橋での自殺者は増える一方だったと思うし、この映画を作ることでゴールデンゲート・ブリッジ管理局の自殺対策の考え方が変わったことを考えると、作った価値はあると思う」と話している。
ちなみにこの映画の公開後、ゴールデンゲート・ブリッジでの自殺者は増加している。
ただし、この映画そのものの影響ではなく、この映画についてのメディア報道の過熱が原因であろうと管理局は語っている。前述のとおりアメリカでこの映画を実際に見た人はそんなに多くない。

自殺報道の影響力については幾度となく議論されている。
新聞報道やニュース、映画などの映像が、自らの命を終わらせる、もしくは自殺を食い止めるほどの影響力を兼ね備えているとは、僕は思わない。
「自分の苦しみには終わりはない」
映画の中でも述べられているように、自殺原因をつきつめるとここに行き着く。
自ら命を絶つというのは究極のプライベート行為である。その人の人生や心の軌跡をすべて把握しない限り、自殺原因は、他の誰にもわからないはずだ。

映画は、あくまでその映像のみで評価するべきである。
映像をないがしろにしてその裏に潜む動機とかを勝手に推測し、それをあたかも映画作品の評価であるかのようにすりかえて語ってしまうのは邪道であると個人的には思う。
この映画は一度見たら忘れられない強烈な印象を残す作品であることは確かだ。
ただし、この監督のインタビューなどを読む限り、自殺者を減らしたいという思いよりも衝撃的な映像を撮りたかったという衝動のほうが強かった感は否めない。
監督がこの問題をライフワークとして取り組むくらいの覚悟を示さなければ、映画『ブリッジ』が幅広く世間の評価を得るのは難しいだろう。
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2017.09.24 Sunday | 05:15 | - | - | - |

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ブリッジ
 アメリカ  ドキュメンタリー  監督:エリック・スティール  出演:                【物語】 美しく荘厳なフォルムで見るものを魅了するサンフランシスコの巨大吊り 橋“ゴールデンゲートブリッジ”。アメリカを代表する観光名所とし
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ブリッジ
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