映画のメモ帳+α

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マン・オン・ザ・ムーン

マン・オン・ザ・ムーン(1999 アメリカ)

マン・オン・ザ・ムーン(1999)原題   MAN ON THE MOON
監督   ミロス・フォアマン
脚本   スコット・アレクサンダー ラリー・カラゼウスキー
撮影   アナスタス・N・ミコス
音楽   R.E.M.
出演   ジム・キャリー ダニー・デヴィート コートニー・ラヴ
      ポール・ジアマッティ ヴィンセント・スキャヴェリ ピーター・ボナーズ
      ジェリー・ベッカー レスリー・ライルズ マリル・ヘナー
      レイコ・エイルスワース マイケル・ケリー リチャード・ベルザー

第50回(2000年)ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)

ジム・キャリーはもちろん、ロビン・ウイリアムズ、ジェイ・レノ....多くのコメディアンに影響を与えてきた伝説のコメディアン、アンディ・カウフマン。1984年、肺がんのため35歳という若さで亡くなった。死の直前まで病名をあかすことなくTV、舞台出演を続けていたため、病気はもちろんその死ですらたちの悪いジョークととらえられ、なかなか信じてもらえなかった。『マン・オン・ザ・ムーン』はアンディ・カウフマンの伝記映画。主演はジム・キャリー、、監督はアンディの大ファンだったという名匠ミロス・フォアマン、製作は生前のアンディと交流のあったダニー・デヴィート(シャピロ役としても出演)が務めた。タイトルはR.E.M.がアンディをモチーフに1992年の楽曲"Man On The Moon"からとられており、R.E.M.は本作の音楽も手掛けている。



 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください。

ファーストシーン。いきなりジム・キャリー演じるアンディ・カウフマンが登場。
彼の作り出したラトカの声(TVショー「TAXI」の役)で登場。
「こんばんわ、アンディです。僕の映画を見に来てくれてありがとう。
でも、ひどい出来なんだ。僕がひどい部分をカットしたら、映画がえらく短くなってしまって・・・
もう終わりなんだ。それではさよなら」
といってレコードが鳴りだし、エンドクレジットが流れ出す。
レコードがとまるとクレジットも止まる。
アンディがレコードを戻し、音楽が鳴りだすとクレジットの続きが流れ出す。
レコードプレイヤーを閉じて画面は真っ暗になる。
数秒後、画面の横からひょいと顔を出すアンディ。
「あれ、まだいたの?怒ってないよね。僕のことを分かってくれそうにない客を追い出すためにやったんだよ。...実はこの映画、最高なんだ」

アンディ・カウフマンという人の芸の本質を的確に表現した、見事なオープニングである。

芸人の映画だけに面白いエピソードが盛りだくさん。基本的にはすべて事実である。

・下手くそなカーター大統領の真似をしたかと思うと、その直後にエルビス・プレスリーの物真似をかっこよく決める。(当時、プレスリーの真似をする人は誰もいなかった)

本物です。


・あがっているふりをして周りをハラハラさせ、レコードに合わせて"サビ"の部分だけを歌う。
・自分自身のTV特番でわざと電波障害を起こして画像を乱した
・大学に呼ばれた際、人気絶頂の"ラトカ"ネタを要求されたが、それはさらっと流し
後はえんえんと小説を朗読した。
・ラスベガス最強・最悪のエンターティナー、トニー・クリストン
トニーはアンディが作り出したキャラクターだと思われていたが、何とアンディと共演してしまう。
・『フライデーズ』の出演中、共演者と(打ち合わせ済みの)乱闘を生放送中にした
・女性との"無性別プロレス"を行った。


エピソードの積み重ねにより、アンディ・カウフマンという人が
"人を怒らせ嫌われることこそエンターティメント"であるとの考え方が浮き彫りになっていく。

プロレス場面からTV番組での乱闘まではどこまでがヤラセかわからないつくり。
「俺に勝ったら結婚してやる」と挑発し、恋人リンを呼ぶ。
ところがヤラセを指摘され、"男性"プロレスラーと対決するはめに。
これは事件のように思えるが、のちのち見ていくとこれもヤラセ...?
このあたりは観客の一歩先を行くことに取りつかれた男の狂気が充満している。

彼の"15年は先を行くパフォーマンス"は観客、スタッフ、家族にさえ理解されなくなっていく。
ヨガを学び、精神の均衡を保っていたが、そのヨガの団体からも「我々にそぐわない」と拒絶される。
肺ガンに侵され、入院しても兄弟ですら彼の"芸"だと思って信じなかった
ここまで"芸"を極めるのはある意味すごい。本物の芸を極めようとすると私生活も破壊せざるをえなくなる。

自分の死期が近いことをしったアンディは念願だったカーネギー・ホールの舞台に立つことを決意。
ここでもゲストの老女を舞台でこき使って、死なせてしまうという危ないパフォーマンスをくりひろげた後
(もちろん、打ち合わせ済みのヤラセ)、観客全員にミルク&クッキーをふるまう大サービス。
(プレゼントをもってくるサンタクロースをねぎらいと感謝の意を込めて"ミルク&クッキー"でもてなすのは
アメリカの伝統)死期が近いことすら信じてもらえず、恋人リン(コートニー・ラヴ)以外、誰にも理解されなかった男の何ともうれしそうな表情。
ただし、実際のところアンディがカーネギー・ホールの舞台にたったのは死の5年前。
死の直前というのは脚色の妙である。
本作の評価が賛否両論だったのはこれが理由かもしれない。

アンディの死後、トニー・クリストン復活祭が行われる。
(この復活祭でジム・キャリーは前座をつとめていたそうだ)
トニーを演じているのはアンディとの"共演"時同様、ボブ・ズムダなのだが
もしかしてアンディはまだ生きているのではないか?という錯覚を思わせる。
そして、ボブ演じるトニー・クリストンは"I will survive"を歌い、生きてやる、生きてやる、生きてやると雄叫びをあげる。
何ともシュールなエンディング。実際、アンディは今でも生きていると信じている人は少なからずいるらしい

ミロス・フォアマン監督は「アンディでよく笑っていたが、何がおかしいのかよくわからなかった」と語っている。
今の時代、メディアはヤラセだらけ。TV放送をみた出演者がのちにクレームを入れるということもよく起こっている。
アンディの笑いは単にそのヤラセのやりすぎにすぎないようにみえる。

今のメディアのヤラセとアンディのヤラセの大きな違いは、着地点があるかどうか。
今のメディアのそれは、観客が安心できる、納得できる、かんたんに感動できる結果に導くためのヤラセ。
いわゆる予定調和である。

アンディの笑いはその逆。観客を不安にし、怒らせる。
安易な着地点を求めず、一つ達成するとさらにその先をいこうとする。
そんなアンディの"もがき"をジム・キャリーは見事に体現した。
ジム・キャリーは『イエスマン “YES”は人生のパスワード』(2008)、『フィリップ、きみを愛してる!』(2010)など
嘘のような実話の主人公を演じさせると実によくはまる

アンディ・カウフマン同様、アンディ・カウフマンを語った映画も多くの人の理解を得られなかった。
2度のアカデミー監督賞に輝く名匠ミロス・フォアマン作品だが、批評も賛否両論。
当時、人気絶頂だったジム・キャリー主演作にもかかわらず、本作は興行的には失敗している。
ジム・キャリーの演技は絶賛され、全米俳優組合主演男優賞にノミネートされた。
だが、アカデミー賞では『トゥルーマン・ショー』(1998)に続き、まさかの落選。
映画『マン・オン・ザ・ムーン』は"俳優"ジム・キャリーの最高作なのに。
ボブ・ズムダ役がジム・キャリー同様、"最も過小評価されている男優"ポール・ジアマッティである不思議。
恋人リンを演じたコートニー・ラヴも『ラリー・フリント』(1996)でアカデミー賞ノミネートが有力視されながら候補入りを逃している過去をもつ。

この映画がもたらした結果自体、どこかアンディ・カウフマン的である。
映画『マン・オン・ザ・ムーン』が賛否両論、興行的にふるわなかったのは当たり前。
人々が絶賛し、ヒットするのは"予定調和"の作品。
病気になっても、死んですら信じてもらえない男の物語など大半の観客は気持ち悪くてしかたがないのだ。
でも、映画とは本来そういうもやもやを描くのに適した媒体。
個人的には本作の"心地悪さ"がなぜか心地よい。大好きな映画のひとつです。
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2016.10.18 Tuesday | 00:31 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0) |

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2017.06.24 Saturday | 00:31 | - | - | - |

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