映画のメモ帳+α

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マイケル・ムーアの世界侵略のススメ

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ(2015 アメリカ)

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ原題   WHERE TO INVADE NEXT
監督   マイケル・ムーア
脚本   マイケル・ムーア
編集   パブロ・プロエンザ T・ウディ・リッチマン タイラー・H・ウォーク

(ドキュメンタリー映画)

マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』は『キャピタリズム マネーは踊る』(2009)以来、マイケル・ムーア6年ぶりの新作映画。『キャピタリズム〜』が"自分の長期的な目標は一部の金持ちが支配する経済システムを是正すること"と発言し続けているムーアの集大成的内容であったこと、かつムーアは"しばらく働きづめだったため疲れ果てている。しばらく映画を撮るつもりはない"と発言していたこともあり、正直言って、もうマイケル・ムーアの新作映画は観ることができないかも、とボンヤリ思っていた。と思ったらしら〜と新作が作られていた。ムーア映画は内容の過激さゆえ公開前にいろいろと問題が起こることが多く、彼の新作映画情報は自然に入ってくるのがここ最近の習わしだったのに、本作に関しては映画館の予告編をみて初めて知る有様。人気監督ゆえ日本でもアメリカ公開とのタイムラグが短いのだが(せいぜい2か月遅れ。『華氏911』のときは日本で少しでも早く公開するため翻訳等涙ぐましい尽力があったというニュースを見た気がする)この『〜世界侵略』はアメリカでは昨年末に公開されており、5か月遅れ。しかも予告編を観る限り、どうもヤバそう。というわけで過度な期待は持たず、はてしなく義務に近い気持ちで観に行きました。



映画を観てまず思ったのはマイケル・ムーア老けたな、ということ。まあ、彼も62歳だし、アポなし取材でブイブイ言わせていたころと比べるのは酷なのだが、外見的な老いだけでなく表情が全般的に死んでいる。ギラギラ感がなくなり、枯れたというより単に疲れている感じ。この6年ムーアも親が亡くなったり、離婚したり!と個人的にもいろいろあったらしいが、彼の最大の武器のひとつである愛嬌がほとんど見られなかったのは残念。

次に感じたのはマイケル・ムーアの腕が衰えたということ。これについては以下、内容に触れたあとで記述することにする。

内容に入ります。

 以下の記事はネタバレしています。未見の方はご注意ください

侵略戦争を続けてきた結果、何も改善されなかったアメリカ。マイケル。・ムーアは"天敵"アメリカ国防総省にある相談をもちかけられる。(これ、ウソでしょ)その結果、国防総省に代わり、マイケル。ムーア個人が"侵略者"となって欧州各国を訪問し、それぞれの"良い制度や習慣"を自国に持ち帰るというミッションを実行することになる。その収穫物とは....。

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・イタリアには30〜35日もの有給休暇があり、結婚したら、新婚休暇?で15日もらえる。消化できなかった休暇は翌年に持ち越せる。(これは日本でもある程度)。育児休暇は5か月。12月には"バカンスを楽しむため"2か月分の給与が支払われる。昼休みは2時間。皆、弁当や自販機などではなく自宅に帰って食べる。イタリアの平均寿命はアメリカ人より4年長い。

・フランスの給食は超豪華。チーズ、デザートつきの4品コース料理!ハンバーガーやコカ・コーラには目もくれない。

・学力世界No,1のフィンランドの学校には宿題がない。

・スロベニアは大学の授業料が無料。奨学金は存在せず、学生は"借金"の意味がわからない。
授業料が払えないアメリカの学生もスロベニアにきて勉強している。

・ドイツは週労働時間は36時間。休暇中の社員に接触するのは違法。
退社後に上司が部下にメールをすることを会社の規則で禁じていたりする、

・ポルトガルでは、ドラッグは違法ではない、その結果、ドラッグによる犯罪率はさがったという。

・ノルウェーは死刑はない。最高刑は懲役21年。刑務所環境は抜群。フツーの自宅部屋のような個室。再犯率は世界で最も低い。

・チュニジアは中絶が無料。イスラムスカーフをするかどうかは任意。

・アイルランドでは世界初の女性大統領が誕生するなど、男女平等。
「女性が3人いたら文化が変わる。1人ではお飾り、2人では少数派、3人でグループの力学が変わる」という言葉が印象的。リーマン・ショックの影響で銀行が次々倒産するが、"意味のわからない商品には投資しなかった"女性トップの銀行のみが生き残った。
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これらのエピソードの羅列で言いたいことは
アメリカは何でもNo.1ではない、奢るなということだろう。
日本人として観た場合も、うらやましい限り。

これらの美点はアメリカをヒントにして創り上げたものも多く、アメリカは過去の美徳に立ち返るべきではないかというメッセージを感じさせて映画は終わる。過去のムーア作品と違い、ハッピーな面が強調されているのがポイント。イタリアでは失業率が高い、などいろいろ問題点があるのにあえて良い点だけをピックアップする。税率の高さなどデメリット的言及もあることにはある。だがひとつの国の習慣を語る場合、国のシステム全体で考えないとその長所の影に隠れて、どこかに歪みがおきている可能性は否定できない。もちろん製作にあたってそういう声は想定済みであえて良い点だけをピックアップしていることは作品内でも強調しているのだが...。本作は過去のムーア作品と違い、テーマがはっきりしていないこともあり、良いところだけをかすめ取る描き方はもやもや感をまき散らすばかり。

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』、話題性は乏しかったが、批評家、観客ともに概ね好評のようだ。だが、個人的には....はっきり言って今イチ。過去の作品と比べると、もうびっくりするくらい面白くなかった。

何しろ、構成が単調すぎる。ヨーロッパ諸国を次々訪れ、インタビューによりその美点を紹介する。
ドキュメンタリーではありがちな語り口と言ってしまえばそれまでだが、
ムーア映画にして初めて、上映中何度も時計を観てしまった
お得意のユーモアもさえず、笑えたのは刑務所の調理場で殺人罪で懲役11年の男にインタビューしていて、「そのうしろのナイフは大丈夫?」と聞く場面くらい。演出に工夫をこらし観客を飽きさせないようにするのがムーアなのだが、今回そういうのがなかったなあ。『華氏911』でゴルフ三昧のブッシュの映像にあわせて、GO-GO'sの"vacation”が流れる。ああいうのが観たかったんだけど...。

演出、ユーモア、テーマへの切り込み方...紹介するエピソードの並べ方は考え抜かれてあるが、全体的にみるとマイケル・ムーアの映画監督としての腕が"劣化"したことを痛感せずにいられなかった。ドキュメンタリーとはいえ、脚本は当然ある。ムーアはこれまで上手くまとめてきたが、今回はちょっと無理があるというか説得力に乏しい気がする。ムーア映画を観た直後の高揚感が本作からは感じられなかった。特に目を見張る映像があるわけでもなく、インタビューの繰り返しのみ。そもそも、この内容をわざわざ映画にする必要ある?本にまとめれば十分。

映画は娯楽だからといって、社会性の濃い内容に無理矢理娯楽要素を詰め込もうとすると、どっちつかずとなり99.9%失敗する。ただ、これは劇映画での話。ドキュメンタリー映画に娯楽要素を持ち込もうとする人はほとんどいない。マイケル・ムーアはそのドキュメンタリー映画において、娯楽要素を巧みに盛り込み"映画"として魅力あるものに仕上げることができる、0.1%の稀有な才能の持ち主だったのに!まあ、マイケル・ムーア作品はドキュメンタリー映画というよりは"マイケル・ムーア"という独自の映画ジャンルと考えたほうが良いですけどね。

『マイケル・ムーアの世界侵略のススメ』はドキュメンタリー映画というくくりでみれば佳作だが、マイケル・ムーア監督作として観た場合、テーマ性も構成もユーモアも弱い。彼の長編映画中(※『ジョン・キャンディの大進撃』 (1994)は未見)初めての失敗作と言えるかもしれない。
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2017.08.15 Tuesday | 00:07 | - | - | - |

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