映画のメモ帳+α

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監督・ばんざい!

監督・ばんざい!(2007 日本)

「監督・ばんざい!」公式サイトにリンク監督   北野 武
脚本   北野 武      
撮影   柳島克己                   
音楽   池辺晋一郎             
出演   ビートたけし 江守徹
      岸本加世子 鈴木杏

北野武の映画には当初、全く興味がなかった。
「俺たち、もう終わっちまったのかな」
「いや、まだ始まってもいねえよ」
この場面の映像に惹かれ、つい見てしまった『Kids Return キッズ・リターン』(1996)この作品一本で映画監督・北野武に対する見方が180度変わってしまった。それ以降、全作をビデオで見た。物語性よりも、映像、ワンショット毎に醸し出す独特の空気感が心地よく、一作として駄作はなかった。

第54回ベネチア国際映画祭金獅子受賞作品となった「HANA-BI」(1997)。もちろん公開初日に見に行った。北野武自身が書いた絵が頻繁に画面に登場し、物語的にも今までの北野作品には全く見られなかった"媚び"の要素がちらついたのがやや気になったものの、たった一言のセリフが映画のイメージを走馬灯のようにたたみかけてくる秀逸な作品であった。
ネコが4匹くらい同時に振り返る場面には仰天しましたね。
どうやってあんな映像撮ることができたんだろう?



長年の?ファンであったウディ・アレンに失望し、監督の名前で映画を見に行くことがほとんどなくなっていたが、"北野武監督作品"のクレジットはそれだけで映画館に足を運ばせる力をもつようになっていた。

だが、そんな想いも長くは続かない。
菊次郎の夏」(1999)、「BROTHER」(2000)...
過去の作品のつぎはぎで何の新鮮味もない作品が続いた。
それでも凡百の日本映画よりは、遥かに優れた映画ではあったけれども...。
ただ期待が大きすぎると、その反動としての失望もいっそう深くなる。
北野武という監督に期待するものがいつのまにか、とてつもなく高いレベルになっていたのだ。

かつてウディ・アレンに感じたことと同様(詳しくはここ)、好きな映画監督の才能がひたすら枯渇していくのを見たくないためそれ以降の「Dolls ドールズ」(2002)、「座頭市」(2003)、「TAKESHIS'」(2005)の3作品は未だに観ていない。

ちょっと話はそれるが、北野武とウディ・アレン。作風は全く異なるがその立ち位置は妙に似ている。
1年に1度くらいのペースで、ほぼコンスタントに新作を発表し続ける。
興行的には自国では当たらず、ヨーロッパのほうが受けがよい...。
違う点はアレンは母国アメリカでも評論家の受けはよいのに比べ、北野武は日本の評論家受けが今ひとつであることくらいか?
ただ、この違いはとても大きい。
北野武監督作品は、一般の映画ファンからはソッポをむかれるに留まらず、日本の映画評論家やコアな映画ファンからもあまり認められているとはいえないのだ。「北野武の映画はなぜ海外であんなに評価されているのかわからない。どうしても好きになれないが、とりあえず観てみた→やっぱりつまらなかった」といった"最初に悪意ありき"の批評なり記事なり感想なりを今までイヤというほど見てきた。そんなに嫌いなら観なきゃいい。観てもわざわざ記事にしないで無視すればすむことなのに。
これには日本人の"異なるジャンルでそれぞれ大成功などさせてたまるか"という奇妙な嫉妬を感じますね。また、日本人は一般的にオリンピックなどスポーツでは"日本人の国際的活躍"をやたらと応援するのだが、音楽、映画等、"言葉の壁"を乗り越えなければいけない分野での"日本人の国際進出"には驚くほど冷たい傾向がある。
たとえ表向きはほめていても裏に嫉妬と悪意が感じられることが多い。
北野武は日本アカデミー賞でも監督賞に2度ノミネートされただけ。もちろん受賞はしていない。確かに暴力描写があまりに多い北野作品は由緒正しき日本人の好みとはいえないかもしれないが、日本における北野作品冷遇の理由はそれだけではないだろう。

その北野武監督の新作のタイトルが「監督・ばんざい!」だと聞いたときは唖然とした。
前作の「TAKESHI'」のストーリーを知ったときにもイヤな感じはあったのだが...。
僕は、監督を主人公に映画を作るようになったらもう末期状態だと勝手に思っている。
かつて「常に撮りたい企画が7本待機している状態がベスト
パクったと言われないためだけに、一日3本映画を観ている」(そんな時間彼にあるのか...?)
と語っていた北野武。とうとうここまで行き詰ったか...。
とはいうものの、それをパロディ化し、あらゆるジャンルの映画にチャレンジしては失敗し...という内容にちょっと心引かれるものがあり、久しぶりに北野武監督作品、劇場での鑑賞となりました。もちろん公開初日です!映画の日だったし(笑)

〜物語〜
「もう2度とギャング映画は撮らない」と宣言してしまったため、次回作の構想がまとまらず途方にくれる監督キタノ・タケシ。これまで撮った12本のうち、ヒットしたのはたったの1本。何とかヒット作を出そうと、小津安二郎風人情劇、昭和30年代もの、ホラー、泣ける恋愛映画、時代劇、SFなどさまざまな企画を出すがいづれも挫折。ふと金のためなら何でもやる母娘が、"金もちらしい”東大泉(江守徹)という男のご子息(ビートたけし)に目をつけ、接近を試みるという物語を思いつく。そんな中、地球には危機がせまっていた。


まず「都合が悪くなると人形になる」というキャラクター設定がミソ。
青い人形はキタノ・ブルーのイメージを...全く感じさせません(笑)
前半は小津風、恋愛ドラマ...次々とテンポよく進みます。
松坂慶子内田有紀など北野組のイメージとはかけ離れた女優が登場してくるのも新鮮でよい。
うーむ、確かに酒とお茶を飲むだけで30分かかる映画を今とってもヒットしないだろうなあ
「昭和30年代のことなら誰よりも知っている」としてのぞんだ「コールタールの力道山」タケシ演じる主人公と藤田弓子とのバトル場面の迫力にマユをひそめる方もいらっしゃるでしょう。この編は比較的長いのですが、あまりのつまらなさに悶絶しそうになります(爆)
もちろん、演出意図によるものでしょうが...。この文章も語尾がいつのまにか「です・ます」調にシフトしてますが、これも意図的なものです。多分(笑)

映画も中盤にさしかかると、謎の大物、東大泉(江守徹)と、玉の輿を狙って、そのご子息(ビートたけし)に目をつける母娘(岸本加代子鈴木杏)がからんでくる話がメインとなってきます。
母娘が立ち寄るラーメン屋の場面はいかにも北野武らしい、とってもベタな演出です。
「このラーメンまずいね」といって、ラーメンにおもちゃのゴキブリを入れて代金を踏み倒そうとするのですが...。また、生身の体ごと車にぶつかろうとする対人地雷のような"当たり屋"なんてこの世にいてよいものでせふか。獲物と定めた"車"をひたすら走って追いかける場面は爆笑ものデス。
北野武監督は「映画には瞬発力がないから、痛いくらいベタな笑いのほうがよい」という考え方をもっているようです。

マトリックス」のパロディ場面。ここはコメディアン"ビートたけし"の動きの面白さをじっくり楽しむところです。たけしサン、「JM」でキアヌ・リーブスと共演したのがそんなに嬉しかったのだろうか?(笑)
過去の北野作品にも何度も垣間見られましたが、北野武が本当に撮りたいもののひとつはマルクス兄弟の『我輩はカモである』のような、究極のナンセンスコメディなのかもしれません。

タケシ扮する"東大泉家のご子息"と岸本加代子・鈴木杏扮する母娘がヨットに同乗する場面があります。娘は「どうしてあの場面でこうなるの?」と物語展開上の不備を問いただします。そこで母は「みんなコイツが悪いんだよ」「都合の悪いときだけ人形になりやがって」とたけしの頭をどつきます。もちろんタケシは人形になっています。「もうバイオレンス映画は撮らない」というフレコミからスタートした本作ですが人形ならいくら殴ってもいいだろ、というアンチテーゼも込められているのでしょう。

映画の中でものべていますが、北野武の映画はヒットしないことで有名です。
作品の出来不出来はもちろん興行成績に至るまで、映画が成功するかどうかの責任は最終的には全て監督にふりかかる。「みんなコイツが悪いんだよ」とキタノ・タケシ人形が殴られる場面には自虐性にみちあふれています。小さな1シーンですが、この映画『監督・ばんざい!』のモチーフを端的に表わしている場面と言えるでしょう。

北野武は日本映画の現状をどう思うか?という問いに対して
「映画自体が簡単になり過ぎていて、ちょっと考える映画が難しくなってきている。映画には色んなジャンルがあったはずだったんだけど、人間の軽い部分の感情をくすぐる映画がヒットする。それに対しては敢えて反旗を翻してきたんだけど、ポキッて折れちゃって。。。だからお手上げ“ばんざい!”って。」
また「自分が撮りたい映画は台本にしちゃうから、今回はやる気のないジャンルばかりなんだよね」とも語っています。じゃあ、自分にはこの映画で試みたようなヒットしそうな映画なんか作れない!お手上げ!と開き直っただけの映画なのか?
もちろん、そんなことはありません。
「GLORY TO THE FILM MAKER」の文字が浮かび上がるラストシーンで馬鹿馬鹿しさは頂点を極めます。その一方で、北野武監督の"自分が映画・映画業界の既成概念をぶっ壊す"という宣言とも受け取れます。北野監督は「『TAKESHIS’』で自分の役者としてのキャリアを壊して、今回は監督のキャリアを壊すことにした。次は“映画”を壊すことをやりたいと思っている。」と語っています。
Source

"映画をぶっ壊す"というのは、既成の映画表現ということだけでなく、型にはまったヒット映画のパターンをもぶっ壊してみせるということなのでしょう。TV、映画、どんな表現媒体上でも"既成概念をぶっこわす"ことが北野武のライフワークなのだ。
北野監督も、もう60歳。そろそろTVはやめて映画に専念してほしいと思ったりもしますが、そんなことは絶対にしないでしょうね。北野武ってそういう人です。多分(笑)



100%満足とはいいませんが、個人的には数ある北野作品中、かなり上位に位置する出来。
たけしの誰でもピカソ」というTV番組をやっている影響か、絵画に関係する映画を撮る企画もあるようですね。
"映画監督・北野武"からやっぱり目が離せない。
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8/24 追記
ベネチア国際映画祭は、「監督・ばんざい!」賞を新設。「映画監督として常に新しい挑戦を続けている姿勢をたたえる」賞で第1回目の受賞者は北野武監督自身であることが発表されました。正式名称はこの映画のラストにも出てくる文字「GLORY TO THE FILM MAKER! AWARD」そのまま賞の名前になっているところが笑えますね。何はともあれ、congratulation!


関連作 『アキレスと亀




2007.06.08 Friday | 01:55 | 映画 | comments(2) | trackbacks(16) |

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2019.04.21 Sunday | 01:55 | - | - | - |

コメント

こんにちわ!
久しぶりに(?)熱い記事を読ませて戴いたかも知れない(笑)

こーんなにくっだらない笑えないギャグ連発し続けられたら逆に嬉しくて気持良さまで感じるもんです(笑)
次回作はどんなんだろう〜?!って、期待せずにはいられない作品でしたね!

なぜだか、あーせいせいしたー!と思っちゃう気持の良い一本で御座いました(^^;

2007/06/09 7:46 PM by こべに
こべにさん、こんばんわ

>久しぶりに(?)熱い記事を読ませて戴いたかも知れない(笑)

ははははは....(^^;
はい、とっても久しぶりです(笑)
最近、醒めた記事が多いもので...。
関心のある作品しか記事にしていないんですけどね。

北野武についてはいつか書きたいと思っていました。
好きな監督の作品の記事を書くのは楽しいです。
ウディ・アレンのときと全く同じパターンになってしまいましたが(~~;
この映画のくだらなさは感動的であります!!!
2007/06/09 8:09 PM by moviepad

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